モモ (岩波少年文庫(127)) ミヒャエル・エンデ 岩波書店 2005-06-16 |
言わず知れたミヒャエル=エンデの名作です。
時間泥棒である灰色の男たちに時間を盗まれ、自分たちの時間を失って心身がボロボロになっていく友人たちを助けるために、少女モモがマイスターホラや亀のカシオペイアと共に灰色の男たちに立ち向かうと言うストーリーは、あまりに有名です。
もちろん、そのストーリー自体にも心打たれるのですが、私が「モモ」の中で一番大好きで、もう何十回読んだかわからないシーンがあります。
それは、友達が家路につき、誰もいなくなった静かな円形劇場で、モモが一人、星達が奏でる宇宙の音楽にじっと心の耳を澄ませるシーン。
そしてもう一つは、時間を司るマイスターホラの家で、いのちの花の真実、時間の真実をモモが体験するシーンです。
太古の昔から、星々が時を越えて一人一人に語りかけ奏で続けている音楽。そして、一瞬一瞬が比類なき美しさで咲いては散り、咲いては散りゆく時間の花。
その一瞬一瞬の真実にじっと耳を傾け、美しさに胸震わせるモモだからこそ時間泥棒と戦う力と勇気を持てたのだと、そして、私たち一人一人も、モモに倣い、心の耳をじっと澄ませ、目をしっかり開いていのちの美しさを知った時、世界を変える力があるのだと、ミヒャエル=エンデが語りかけてくるような気がします。
生前のエンデ本人による「モモ」の朗読会で聴くことができた、あの深い、優しい声を思い出します。
もともとTVやラジオ、SNSなどが苦手で縁遠い私ですが、最近はふと時間ができた時、やることを済ませてぽっかりした時は、ただ静かに目を閉じて、心の耳を澄ませ、自分のいのちの花を感じてみます。
もちろん、一朝一夕にすぐに聴こえるものでも、感じられるものでもないとわかっていますが、そうしていると、心がしーんと落ち着いて来て、いまどこにいるのか、明日なにをしたらいいのかが見えてくる気がするのです。
ハワイのチャンティング、日本の祝詞、聖歌、世界中にある詠唱、懐かしい子守唄・・・人の心を揺さぶるメロディーはきっと世界中のどこかで誰かが聴いたモモと同じ星々の音楽。
今世界を見渡すと人類は暗中模索を続けていて、日々は細々した雑事に追われ、誰もが迷子になりそうな時代です。
けれど、自分のいのちの花の息吹を感じられたら、星々が奏でる歌を聴くことができたら・・・勇気を持って、明日も自分の一歩を踏み出せる気がするのです。
まだの方は是非、もう読んだことがある方にももう一度、じっくり味わって欲しい大好きな1冊です。